十二国記について語りたい!

十二国記のネタバレ感想・展開予想・愛を叫びます

風の海 迷宮の岸(1)

ついに、第2巻の振り返りを始めることができました。

第1巻と第2巻の大きな違いのひとつが、「プロローグ」。第1巻は第一章から始まっていた物語に、ここではちょっとした前置きが付け加えられます(3、4巻とかではどうだったかな。思い出せないけど)。『魔性の子』や『月の影 影の海』の後半でちょっとずつ姿を見せてきた泰麒。その物語の壮大さを予感させるような、「プロローグ」の存在は、なんだか意味ありげですよね。

 

…今気づいたけど、泰麒に関係する物語の時系列としては「風の海」→「月の影」→「魔性の子」/「黄昏」→「白銀」の順番になるのか。とんでもない作家だな…小野不由美さん…

 

プロローグ

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冬のある日の夕方、「彼」は些細なことがきっかけで家から閉め出され、中庭に立たされていた。寒さに震えながら祖母と母が言い争う声を聞いていると、倉と土塀の隙間から 、彼を手招くように動く腕が見えるのだった。

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"雪が降っていた"

この書き出しで、なんとなく「月の影」の冒頭を思い出した。

暗闇の中で水滴がしたたる音だけが響くあの冒頭と同様、水のイメージから始まる。ただ水が滴っているだけ、ただ雪が降っているだけなのに、何かが起こりそうな不穏な空気。最初の見開きだけで、小野さんがファンタジー作家として(も)天才であることがわかるよね…。

 

"そもそもは、洗面所の床に水をこぼしてふかなかったのは誰かという、そんな些細な問題だった。弟は彼だと言い、彼は自分ではない、と言った。"

"彼は常々祖母から、嘘をつくのはもっともいけないことだとしつけられてきたので、自分が犯人だと嘘をつくことはできなかった。"

"彼は自分ではないとくりかえすしかなかった。"

"犯人を知らなかったので、知らないと答えた。そうとしか返答のしようがなかった。"

この不自然なまでの素直さ。生真面目とは何か違う、まっすぐな性質。

彼に対して周囲が抱く違和感や馴染めなさを、しっかり描いている。

 

雪の中寒さに凍える「彼」=泰麒のもとに、暖かい風が流れてくる。

"ふいに首筋に風が当たった。すかすかするような冷たい風でなく、ひどく暖かい風だた。"

ここまでで描かれる、周囲からどうしても浮いてしまう彼の姿と、対照的な「あちら」のあたたかさは、泰麒にまつわる物語全編に一貫している。彼と二つの世界の距離感、関係性をこのプロローグで印象付ける。

 

"腕は肘から下を泳がせるようにして動かしていた。それが手招きしているのだと悟って、彼は足を踏み出す。"

廉麟の手助けにより、呉剛環蛇でこちらに手を伸ばすのは、汕子。この後の物語を知っていると、この場面は「汕子、よかったねぇ…」と女仙目線になってしまう。

 

"短い冬の日が暮れようとしていた。"

まさに、逢魔が時というやつでは。一介の日本人としてみるとめちゃくちゃホラーな「魔性の子」的シーンの冒頭でした。