月の影 影の海(3)
第三章
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈あらすじ〉
民家に盗みに入った陽子は、達姐に助けられ働きに出る。刀の見せる祖国の風景に思いを馳せ、自分を惑わす蒼猿とともに旅をするが、陽子が連れて来られたのは女郎宿だった。再び妖魔に襲われながら、剣を使って陽子はまた逃げなければならなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
"北のほうの戴国だってそうだ。戴国のほうはもっと酷いって話だよ。"
今日はついに新刊の告知があったが、この時点では泰麒は流されている。改めて、十二国記の設定の綿密さに驚かされる。
巧国に妖魔が増えたのか?と思える描写がまた出てくる。
"もともと妖魔ってのは、そうそう人里に出るもんじゃない"
"最近はどういうわけか多いけどね。危なくって、日が暮れたら外に出られやしない"
これだけでは、巧国が傾いているから妖魔が増えているのか、陽子を追っているから増えているのか不明。
陽子の本音を言葉にするだけだった蒼猿が、"あの女は信用しないほうがいい"と達姐の裏切りを見抜く場面がある。これが陽子の内心だったかどうかは微妙なところだが、おそらく陽子は達姐を信頼していたのではないかと思う。だとすると、やはり水禺刀は景王を守るために働くものなのだろう。
陽子が達姐に連れてこられたのは、女郎宿だった。緑の柱は女郎宿に決まってるらしい。胸元を開いたしどけない恰好をした女もいて、どうやら十二国にも性欲というものは存在するみたい。子供は木から生まれるのに。うん、やっぱりこういう微妙な設定の危険な部分は、陽子絡みなんだよな。
裏切りに気づいた陽子はまたしても潮騒の気配を感じる。
"耳に密かな音が聞こえ始める。潮騒に似た、微かな音。"
これはなんだか、内なる異界の血とは違うような気がする。保留。メモしておく。
達姐の裏切りが決定的なものとなった瞬間には次のような描写が。
"衝撃でか怒りでか、鼓動が振り切れるほど速い。押し殺した息が熱く喉を焦がして、耳を聾するほど荒々しい海鳴りの音がする。"
この「海鳴り」は、激しい潮騒のように思える。陽子が強く自分自身であろうとするとき、潮騒はざわめくのだろうか。そして陽子の本来の出自は十二国だから、陽子の本来の姿と異界が結びつくのだろうか。うーん。
"人は身内に海を抱いている。それがいま、激しい勢いで逆巻いているのが分かる。表皮を突き破って、目の前の男にそれを叩きつけたい衝動。"
この箇所からは、陽子自身の強い本性と、本当は十二国の人間であるということが陽子自身の中で結びついているが故にこういう表現になっているような気がする。うまく言えない。
馬腹(ばふく)が現れると、再びの陽子のスーパー・アクションシーン。
"いつの間にか集まった人間で人垣ができている。人垣の厚みを見て陽子は軽く舌打ちをした。この方位を本当に殺さずに切り抜けられるのか。"
おいおい、あのか弱かった陽子はどこへ行ったんだ。いつのまにそんなに強くなった。かっこいいな。たくましくなったな。
第三章は、もうこれ以上痛めつけないであげて!と言いたくなるくらい陽子ボロボロ。初めて親切にしてくれた人間に裏切られるなんて。しかも女郎宿。蒼猿というおまけもついてくるし。この章は、陽子の最初の変化が目覚ましいので楽しい。そして、十二国のシステムを知らない読者にとっては、自分たちと同じく無知な陽子が人々から少しずつ情報を得ていくので知識のペースがちょうどいい。そんなもんかな。